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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)1019号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

「2(健次の逮捕、勾留及び死亡)

(一) 健次は、覚せい剤取締法違反被疑事件で昭和五一年六月二一日から東京拘置所において勾留され、同月一〇月六日の判決言渡当日保釈により釈放された。

(二) 健次は右釈放の翌日(同月七日)、国府台病院において胸部粟粒陰影呼吸困難との診断を受けて即日入院し、翌八日退院、自宅療養の後同月一二日江戸川病院に入院し、同病院において同月二九日午前〇時四三分、肺結核、肺癌により死亡した。

3(責任原因)

(一) 公務員である東京拘置所長は、監獄法第三八条ないし第四三条等により東京拘置所に在監する刑事被疑者及び被告人に対し、その健康の維持、管理をなし、疾病の者に対しては適切な治療等をなすべき注意義務がある。

(二) 健次は、逮捕前の昭和五一年六月一日同愛記念病院において肺浸潤により安静加療を要すとの診断を受け、その旨拘置所係官にも告知し、また、勾留中の同月二四日にも東京警察病院において粟粒結核の疑いがあり精査、療養を要するとの診断を受けていたものであり、このまま放置すれば病状悪化により手遅れに至り死亡等重大な結果を招くことは容易に知りうる状態にあつたところ、東京拘置所長は、刑事弁護人からの適切な治療措置を求めるとの翌七月一二日付要望書提出にもかかわらず、前記注意義務を怠り、健次に対する精密検査、投薬、手術等の適切な治療行為を講じなかつた過失、または、適切を欠いた治療行為をなした過失により、健次の病状を悪化させ、手遅れの状態に陥し入れて前記2(二)のとおり同人を死亡せしめたものであるから、東京拘置所長は、公権力の行使に当る公務員として、その職務を行うについて過失があつたといわざるをえず、被告は原告らに対して、国家賠償法第一条一項により原告らの受けた損害を賠償すべき義務がある。」という請求原因事実である。

【判旨】

二責任原因について

東京拘置所長が国家公務員であることは当事者間に争いがなく、監獄法第三八条ないし第四三条によれば、同所長は東京拘置所に在監する刑事被疑者及び被告人に対しその健康の管理をなし、疾病の者に対しては適切な治療をなすべき注意義務があることは明らかであるところ、原告は同所長には請求原因3(二)記載の注意義務違反の過失があつたと主張するので検討する。

1 健次が東京拘置所入所に際し、昭和五一年六月一日同愛記念病院において診察を受けた旨申し述べた事実、逮捕後東京警察病院において「粟粒結核の疑い、入院、精査安静加療を必要とする。」旨の診断を受けていた事実、及び健次の刑事弁護人より、東京拘置所長あてに要望書の出されていた事実はいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、健次が昭和五一年六月一日同愛記念病院において診察を受け、「肺浸潤」との診断を受けていたことを認めることができる。

2(一) <証拠>によれば、健次に対しては同所内において、請求原因に対する認否並びに主張5(一)ないし(七)各記載の経過で診察、検査、治療が行われたことを認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(1) 右認定事実によれば、拘置所担当医師においては、健次の入所に際し、前記当事者間に争いのない同愛記念病院、東京警察病院での各診断結果を知り、また直ちに行つた胸部X線撮影、赤沈検査等により、健次の申出にもあつた粟粒結核症の疑ありとの認識を有し、

(2) そのため、入所後直ちに健次を病室に収容し、抗結核療法を施行し、(<証拠>によればその施行はパスカルシウム、ネオイスコチン、ストレプトマイシンの三種の薬剤投与によるいわゆる三者併用のものであつたことが認められる。)以後退所に至るまで右療法を継続するとともに、計五回にわたり、胸部X線検査を行い胸部粟粒状陰影の変化を監視し、

(3) 昭和五一年七月及び九月の二回にわたり、健次が胸痛、腰痛を訴え、体重も減少していたこともあつて、各方面からの総合的検査(末梢血、尿、肝機能、喀痰、ツベルクリン反応、血清カルシウム量測定、両脚部・縦隔洞部断層撮影、胃・一二指腸X線検査、腰椎X線検査、ロイマチ検査、心電図などの各検査)を実施し、結核以外の諸疾病についても意を注いだが、

(4) 右抗結核療法によるも健次の病状が改善しないことから、担当医師は癌の疑もあるものと考慮して喀痰細胞診検査、頸部リンパ節組織病理検査を東京大学病理学教室に依頼したものの、その結果には明確な癌所見は見られないまま、

(5) 同年九月二〇日に至り、健次の容態に好転が見られず、むしろ同月一六日のX線写真に粟粒状陰影の増大を認めたので、同日、東京地方検察庁、東京地方裁判所に対し、「勾留不適当」の通告をして、釈放を促した

ことが認められる。

3 以上総合すると、拘置所担当医師としては、健次の病状を的確に把握し、病状に即した治療等を施行したものであつて、同医師には何ら責められるべき事由がないから、東京拘置所長には原告ら主張の注意義務違反の過失は存しないものというべきである。

(山田二郎 古屋紘昭 内田龍)

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